Aug 8th, 2005

8 years ago

night light  three仕事を終えてタバコに火をつけ、ひと吸いしたらなつかしい味がした。
そういえばあの日も夏だった。当時、飲食業界で働いていたあたしは交代で取る名ばかりの夏休みー通常の休みに1日だけ特別休暇を付けたものーのまっ最中だったからきっと同じくらいの時期だったんだろうな。

当時あたしは浮気をしていた。滅多にないことなのだけれども。

その頃のあたしは彼氏にとってほとんどセックスの出来る家政婦みたいなもので、お互いに春頃に起きた様々なトラブルが未だ尾をひいていたし、同じ職場だったためにいつも一緒にいる閉塞感も感じていた。とにかく毎日疲れていた。
そして相手のオトコはバーの店員で、“稼ぎのいいバイト”をしているカノジョの借りたアパートで暮らしていた。明け方に仕事を終えてアパートに帰り、しばらくして帰ってくるカノジョの疲れた首や肩をマッサージしてあげる日々にオトコは神経を参らせていた。
そんなわけで出会ってすぐあたしたちはあっさりと相手を現実逃避の相棒に見いだした。
オトコと遊ぶのは心地よかった。優しくしてくれたから。そしてあたしもオトコに優しく接した。優しくするのは自分自身のためだってお互い知っていたけれど、それでよかった。自分ひとりで自分に優しくするのは難しかったから。求めたのは居場所だけだったから、日頃疲れ過ぎていたから、ふたりはプラトニックだった。

その日、別れ際にはじめてあたしたちはキスをした。
その後オトコと別れてあたしはタバコに火をつけ、夜中の空気を吸い込みながら街を歩いた。
心地よい気分だったのでまっすぐ家には帰りたくなくて、すぐ近くだった仕事場の店へ向かった。もう夜中もだいぶん過ぎていたから店はまっくらで、誰もいない筈だった。鍵を開けて店に入りしばらくすると「お前、ここで何してるんだ?」と声がした。振り返ると彼氏が立っていた。
後ろめたかった。…と思う。
そしてあたしは彼氏のアパートへ戻った。

オトコと会ったのはそれが最後だった。
いや、正確に言えばそれから何年かしてオトコを見かけはしたのだけれど。当時あたしはケータイ屋の店員だった。夏服に着替えたばかりの時期でクーラーの効いた店内できちんと化粧をし接客をしていた。他の子が接客をしていたオトコは、壊れた携帯電話の修理を依頼しに来ていたらしかった。汚れた包帯を腕に巻き、作業服を着ていた。包帯からは少し血が滲んで見えた。
声をかけようか悩んで結局あたしは声をかけずに、まぶしいほどの日射しの外へ出てゆくオトコの後ろ姿を見送った。

なんだか自分がまた少し強くなってしまった気がしてさみしい気分だった。
夏のニオイはさまざまな思い出を隠していて、毎年毎年思いがけない記憶をあたしに甦らせる。

by nao :: 22:16 :: eroticism/0

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