Apr 8th, 2006

父と母

父が入院した。

仕事から帰る道中、母からメールが来た。

お父さんが急に入院しました。今家に帰るタクシーの中です。又電話します。

父が入院…今まで病気らしい病気をしてこなかったひとだ。何が起きたのだろう。そしてこれからの予定たちをどうしようかというのが頭をよぎる。
家に帰ってこちらから電話をかけた。
母もちょうどうちに着いたところだったらしい。

どうやら1週間ほど前から調子が悪かったらしい。
ようやく今日、父が重い腰をあげて近所の病院で血液検査をしたところ、総合病院へ急遽入院することになったのだと。
そして父は車椅子の上のひととなった。

病名はまだはっきりとはしていない。
医師の所見ではおそらくは重度の再生不良性貧血ではないかと思うとのこと。

母の話では父の血液検査の結果、血液(の成分が…ということだと思うが母に聞いてもよく分からないとのこと)が常人の1/3しかなかったらしい。

どうやらとりあえずは大量の輸血をすることになるらしく、同意書を求められたことが母の不安を煽ったようだった。ただでさえ家族の病気で病院にいるというのはとても疲れる。
その後検査をして正式に病名とその後の処置が決まる。
もし再生不良性貧血だったとしたら場合によっては骨髄移植が必要になる。
これからどうなるのか、まだ先は見えない。

どうやら先週の日曜日、雨に打たれて熱を出したことが発端だったらしいが、それから今日に至るまでの間に母は再三にわたって父に病院に行くようにすすめたらしい。
母は昨年大腸がんの手術をしているために毎月内科に通っているのだけれど、その内科に母を車で送っていったときも母のすすめに従わず診てもらおうとしなかったそうだ。
今回入院が決まってから主治医に「時折、便が黒いことがあった(内臓出血が疑われる)」と言ったそうだが、母は今までそんなこと一度も聞いていなかった。もともとどちらかというと血が薄いほうだったということも母は初めて聞いた。

「ずっと一緒に暮らしてきたのに、そういうことをぜんぜん話してくれなくて、情けないしなんだか頭にきちゃったり…。ほんとに。」
母は電話の最初から怒っていた。ずっとずっと怒りながらひとりでしゃべっていた。
「先生にね、『最近輸血はしましたか?』って聞かれて『輸血もしなけりゃ献血もしてません』って、おもしろくもない冗談みたいなことこうゆうときに言うんだからっ」
どうでもいいことまで怒っていた。

ああ、このひとは今“母”じゃなくて“長年連れ添った妻”なんだなぁ。とそんな母の言葉を聞きながらあたしは思っていた。
心配性なひとだから心配しているよりも怒っていてくれるほうが離れている身としては安心。とりあえずひと通り怒ったら気持ちも少し落ち着くだろう。
B型の男と結婚したんだからその辺の考え方が違っても仕方ないし、それで悩んだってムダだよなんて女の子同士の会話みたいになだめているうちに「そろそろお風呂入らないと…」と言い出したので電話を切った。
今頃彼女は少し悶々としながら浅い眠りについているだろう。(もともと眠りが浅いひとなのでまともに眠れるとは思えない)

とりあえず今日の明日の…という切羽詰った状況でもないし、いきなり車椅子になったわりに4人部屋をあてがわれた程度なので家族としては今までの生活にそう大きな変化はない。
父は今まで寝るか散歩するか本を読むかテレビを見るふりをして昼寝をするかくらいしか活動していなかった人物で、入院先の病院は実家からバス1本で行ける場所なので母の生活は“毎日町まで出なければならない”くらいの変化で済むと想像される。
…とここまで書いて、どういうわけか父の病気のわりに心配の矛先が母に向かっていることに気付いた。
ちょうど昨年の今時分、母はがんの摘出手術を済ませて病院のベッドに寝ていたのだ。
おしりと太ももが太いことが悩みだった母(そのDNAは見事にあたしに受け継がれた)の脚がパジャマ越しにもげっそりと細くなっていることにせつない気持ちを感じたことは今でも忘れられない。
女の母性本能はなにも男と子供へだけ向けられるものではないのだ。

再生不良性貧血の場合、自覚症状がないままに進行してゆくようなので、正月に見た病気のお年寄りのように夕方から生気なく横になっていた姿ももしかしたらその血液のせいで必要以上にだるくて仕方がなかったせいなのかもしれない。
少し彼の評価を見直してあげないといけないと思った。

とりあえず明日、昼に父の顔を見に病院に行く。
お見舞いに行くというあたしに母はちょうど渡したかったお化粧ポーチがあるらしく、父に預けておくと言っていた。そしてあたしはあたしでちょうど母に渡そうと思っていたキッチン用品があるので父に…
…なんだか父がかわいそうだ。

お見舞いの手土産に何を持っていこうか。
好きな本や音楽のジャンルは知っていてもどれを持っているかが分からない。
一緒に暮らしていないとこういうときに少し困る。

by nao :: 02:54 :: family archive

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